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「エロマンガ先生OVA」 竹下良平監督インタビュー

2017年4月~6月まで放送され、大好評を博したTVアニメ『エロマンガ先生』。
同11月にOVAの制作が発表されていたが、そのOVAが2019年1月16日に発売された。
TVシリーズのスタッフが再集結して贈る新作エピソードは、ミュージカル仕立てとなる「山田エルフのラブソング」と、紗霧が寝込んだ正宗を看病すべく奮闘する「和泉紗霧のファーストキス」の2本。
山田エルフと和泉紗霧のかわいさが存分に詰め込まれた濃密な2話について、竹下良平監督に話を聞いた。

ーーOVAの2話ともとても面白かったのですが、そもそも『エロマンガ先生』のTVシリーズの現場は、監督にとってどんなものでしたか?

竹下
もう2年くらい前になるので、覚えてないところはありますけど、初めての監督作品で、結果を出さなければいけないというプレッシャーがありました。
そして、これまで参加してきた作品が、作画的に良いものが多かったので、それは越えたいと思っていましたね。
なので制作サイドが集めてくれたアニメーター以外にも、自分で声をかけたりしました。そういうふうに能動的に動かないと人って集まらないので、作画さんの元に足繁く通ったりしていました。

ーーそこから監督としての仕事になるんですね。

竹下
今は作品も多いので、制作だけでなく自分でも動いていかないと人が集まらないと思っています。

ーーこの作品をアニメ化する上で、一番気をつけていたことはどんなことですか?

竹下
メインヒロインの紗霧や他の女の子達をかわいく描くというのはマストでした。もともと女の子がかわいい系の作品を作ってきたこともあり、自分のキャリアの延長線上にある作品ではあったのかなと思っています。
それ以外では明るく楽しい作品であること、ですかね。

ーーカメラのアングルや、細かい動きなど、非常にフェチ的なものを感じますし、それがこの作品のかわいさであり特徴だった気がします。

竹下
そこにはかなりこだわっていて、「紗霧カット」というものを作って、そのカットを中心に演出プランを考えていく感じでした。

ーー「紗霧カット」ですか。

竹下
女の子のかわいい仕草とか、服を脱ぐシーンやアングルとかのフェチに寄ったカットを毎話10くらい作っていて、そこが目立つような流れにしていったんです。

ーーそのカットを最大限引き出すために、作画も大事になるんですね。

竹下
演出的にカット割りや流れでかわいく出来る部分はあったとしても、どうしても絵の力が必要になるので、作画に頼るところは大きかったですね。

ーーTVシリーズの評判はいかがでしたか?

竹下
視聴者からの評判はありがたいことに好意的だったと思います。
それから視聴者の感想などは放送中から細かく確認していましたね。放送が始まった段階では、内容を変更できる部分は限られてきますが、評判が良かった部分はさらに盛ったり、そういう微修正は細かくしていました。
自分が仕掛けた小ネタや演出って各話にたくさん入っているので、そこに対する回答を視聴者からの感想で確認し、次の話数でその反省点を活かす、ということはやっていましたね。

ーー影響され過ぎてしまうから、放送中は評判は見ない方もいますよね?

竹下
そうですね。でも自分は人の反応はすぐに見たいほうですね。そこが楽しいからものを作っているというのもあるんです。
自分が作ったもので、視聴者が喜んでくれることが一番の幸せなので。

ーー初監督作品となったTVシリーズの、自分の中での評価はどうですか?

竹下
自分に出来ることは全部やれたと思うので、監督として「エロマンガ先生」に参加出来て良かったと思います。
だから後悔みたいなものは全然ないですね。もちろん、あそこをもっとこうした方が良かったという反省はありますが。

ーー今回のOVAを制作することになった経緯を教えてください。

竹下
本編放送中は続編の話はなくて、2017年の夏くらいに「OVAを作ってみませんか?」という話があったんです。自分としても、OVAで挑戦してみたい話があったので、そこからプロットを書いて渡したりしました。

ーー続編を作れるという喜びもありましたか?

竹下
単純に続編を作れることが嬉しいというより、本編の時以上に自分がやりたいことがオリジナルでもっとやれるかもしれない、という期待が嬉しかったですね。

ーー今回は2話ともオリジナルストーリーですが、これは監督が考えたのですか?

竹下
スタートのプロットは2話とも自分が考えて伏見先生、構成の高橋さん達と相談して完成に持って行きました。アニメーションを物語から作りたいと強く思っていたのでこの機会にやらせていただきました。
エロマンガ先生という原作の枠の中で、自分が面白いと思うネタをアニメで表現してみたかったんです。

ーー伏見先生とはどのような関係で、作品作りをしているのですか?

竹下
伏見先生はとても柔軟な方で、こちらがA・B・Cと3つの案を提示したら、そのどれに対しても柔軟な意見を言ってくださるような方ですね。
頭ごなしに否定するような方ではないので、相談しやすいですし、非常に機転が利く方だと思います。

ーー今回は、山田エルフと和泉紗霧のエピソードになりますが、これに関しては?

竹下
この2本以外にも他のキャラでプロットを提出したこともあったのですが、原作・メーカーサイドから、紗霧とエルフを主人公にしてほしいというオーダーがあったので。

ーー「山田エルフのラブソング」は、本編の9話とのつながりもありましたが、ミュージカルにするという発想はどこから生まれたのですか?

竹下
自分の中で、OVAは単品の映像で勝負しなきゃいけないという意識があったので、派手でキャッチーなものにしたいと思っていました。
エロマンガ先生のような日常作品で、派手な映像にするために何が出来るだろうと考えた時、エルフが9話で演劇風に告白していたのを思い出しました。それで、エルフ×ミュージカルという発想につながっていきました。
過去のアニメシリーズの中でも、歌と作画が融合した話数って、人気が高くなる印象があります。だから難易度は高くなるけれど、そこから逃げずにミュージカルを表現できれば本編以上のエンタメ作品を作れるのではないかと思ったんです。

それからミュージカル映画を研究しましたね。『ラ・ラ・ランド』とか『グレイテスト・ショーマン』、『嫌われ松子の一生』、『告白』とかの作品を観たりしたんですけど、ミュージカル映画の特徴として、話の構造がシンプルで明快というものがあると思います。
だから今回の話も展開はオーソドックスでわかりやすいものにしようと思いました。

そしてアニメの場合は20分ちょっとの尺しかないので、その枠内でミュージカルシーンを意味のある、エロマンガ先生として無理のないものにする構成作りに一番頭を使いました。
1話の冒頭で今回の話がいつもとはちょっと違うミュージカル回であることの明示をしつつ、中盤でエルフと母親が正宗との関係を巡って喧嘩、そこからエルフが普段母親や正宗に伝えられなかった思いを歌にのせて伝えて、ラストのオチに向かう、というシンプルで明快な構成を作りました。

ーー作画は大変そうでしたけど、演奏シーンが入ることで、すごく本格的な感じがしました。

竹下
そこもすごく悩みました。演奏シーンはいったい誰が担当するんだ!と(笑)。
ドラムとピアノの演奏シーンが入るんですけど、最悪の場合、止め絵になっても成立するようにコンテを構築しました。ミュージカルのダンス作画だけでもとても大変なので、それ以外のパートのカロリー計算も綿密にしないと現場が崩壊してしまいます。なので信頼出来る原画さん達に今回のOVAへの参加を確約してもらった上で構築したパートが多々あります。
そして、ドラムとピアノの演奏シーンは徳丸昌大さんが描いて下さり、とてもカッコいいカットになったと思います。

 今回の肝であるミュージカルシーンの大半を、神本兼利さんがやってくれたんですけど、とても素晴らしい上がりで嬉しかったです。全部で44カットもやってくれましたね。
他にも、滝山真哲さん、杉田 柊さん、御所園翔太さん等4人の原画さんに加え、作監の渡邊敬介さん、総作監の岡勇一さんが主にミュージカルのダンスシーンを担当して下さいました。

ーーそれに、オープニングも映画みたいで良かったです。

竹下
映画みたいな導入をやってみたかったんです。オープニングでは鏡台の上にちらっと見えるブルーレイが『ラ・ラ・ラノベ』になっていたり小ネタはたくさん散りばめています…(笑)
今回がミュージカル回であることの明示や、本編に絡む伏線がたくさん入ったオープニングです。原画の村山さん、菊池さん、作監の前田さん、岡さんがオープニングを担当してくださってます。
映像としての流れも好きだし、エロマンガ先生らしいカットもきちんと入っているので、とても気にいってますね。ちなみにエンディングは長澤翔子さんが一人原画で頑張ってくれた上に、作監の織田さんや色彩設計のホカリさん、撮監の青嶋さん達の力もあり、あのクオリティのエンディングが完成しました。
エンディングのインスタグラム作画で、本編では描けなかったけど、重要だと思うシーンを網羅しています。
ちなみにエルフのインスタフォロワーは500万人超えです(笑)「いいね」の数にも注目してみて下さい(笑)

ーー2話の「和泉紗霧のファーストキス」はどうですか?

竹下
2話は演出として参加してます。普段の紗霧と正宗の立場が逆転したら面白いんじゃないかなっていうのがコンセプトです。
いつもは紗霧が引きこもっていて、正宗が世話をしているけど、そこを逆に紗霧が正宗の世話をするとどうなるか、という発想からスタートしました。

ーーこのエピソードで気に入っているシーンはどこですか?

竹下
紗霧の内弁慶っぷりや張り切ってるけどちゃんとできない感じが可愛く面白いポイントだと思っています。
ネタとして一番気に入ってるところは、紗霧が洗濯をしているシーンですね。テレビのエンディングで紗霧が自分のパンツを自分で洗濯しているのですが、そこを実際の本編にも逆輸入してみました。

ーーそれ以外にも紗霧のかわいいシーンはいっぱいありましたね。

竹下
郵便受けから覗く紗霧も、とても内弁慶感が出てて良かったですね。あそこの攻防はムラマサのシーン含めて面白かったと思います。

ーー所々で出てくる土手のおじさんのカットが気になりました!本編だと5話に出てきましたよね?

竹下
あれはコンテの方の趣味ですね(笑)僕はすごく好きで、面白いと思っているんです。
確かに誰なんだ?って印象がありますよね。

ーーでも、ちゃんと頑張る紗霧を応援しているふうになっているんですよね。

竹下
そうです。ちゃんと内容に沿っていて意味のある遊びのカットとなっています。

ーーさらに特典映像として『藤田茜のエロマンガ先生布教の旅 in Hawaii』が入っていますが、監督もハワイに行かれたそうですね。

竹下
『Kawaii Kon2018』に藤田さんと行ってきたんですけど、異国の地ハワイにも『エロマンガ先生ファンがいたことは嬉しかったですね。
海外で受ける作品って、ファンタジーとかアクションもののイメージがあったんですけど、萌え系の作品も海外で受けていることがわかったので。日本のかわいいは、世界でも通用しているんだなって。

ーーそれと山田エルフが歌うミュージカルソングも特典としてありますね。

竹下
レコーディングに初めて立ち会ったんですけど、高橋未奈美さんの歌がすごすぎて鳥肌が立ちました
。最初は映像を見ずに歌っていたんですけど、途中で映像を見ながら歌ってもらったら、歌唱にさらにキャラの気持ちが入ったような気がしました。やっぱり演者なんだなと思った瞬間でしたね。

ーーでは最後に、今回のOVAを楽しみにしている方にメッセージをお願いします。

竹下
このOVAの制作に自分は約1年という期間関わってきました。
ミュージカルというエロマンガ先生としてはとても挑戦的な映像を作ることになり、苦労が多かった分、本編を超える2本になったというのは自信を持って言えます。
ぜひたくさんの人に見ていただければ監督としてとても幸せですね。