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「エロマンガ先生OVA」 原作者・伏見つかさ
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監督・竹下良平 対談

『エロマンガ先生OVA』のプレミア上映会が行われた日、
都内某所でささやかな打ち上げ&新年会が行われました。
そこで『エロマンガ先生』の原作者である伏見つかさ先生と
アニメの竹下良平監督の対談が実現!
OVAの感想をまだ伏見先生に聞いていないと
緊張していた監督でしたが、
伏見先生は、ファンと同じ気持ちで見たいと、
あえて完成作品を上映会まで見ていなかったという…。

そんな緊張感も漂う対談をお楽しみください。

最高に良かったです!
いいフィルムを作ってくださって
ありがとうございました(伏見)

スタッフ一同
今日は試写会お疲れ様でした! カンパーイ!

ーー今日は打ち上げの場を借りて、対談をお願いできればと思います。
まず、『エロマンガ先生OVA』を見た感想をお願いします。

伏見
最高に良かったです! いいフィルムを作ってくださってありがとうございましたと、まずはお礼を申し上げたいです。

竹下
伏見先生にそう言ってもらえると、非常に報われるというか…。

伏見
最初から心配していませんでした。安心して、今日の上映会を楽しみにしていたんです。
実は完成映像を見たのは今日が初めてだったんですよ。白箱はかなり前に頂いていたんですけど、ファンと一緒に大きな画面で見たいと思いまして、あえて温存していたんです。
で、今日見たらすごく良くて。原作者としてだけでなく、一ファンとしても、満足のいく、幸福になれる映像でした。

ーー途中段階では、いろいろ見てはいたんですよね?

伏見
そうですね。自分の中でこういう映像になるんじゃないかなというイメージはあったんですけど、ひとつひとつ自分の想像を超える映像を見せてくれたので、すごく嬉しかったです。

ーー竹下監督に対する信頼というのは、TVシリーズから積み重ねたものなのですか?

伏見
TVシリーズが終わった段階では、竹下監督をとても深く信頼するようになっていました。
監督は常に有言実行の方で、言ったことは必ずそのとおりにしてくださるんです。OVAのプレゼンのときに、絶対にこのシーンは素晴らしい映像になる!と太鼓判を押してくださったので、監督が言うならそうなるだろうという安心感がありました。

竹下
そうやって自分がやりたいことを言葉にして宣言することで、自分を追い込んでいる感じです。
いい映像を作るって大きなエネルギーが必要だし、その覚悟みたいなものを口に出して言うことで、頑張れる原動力になればと。

伏見
それを言葉以上に実現してくれる方は、なかなかいないと思います!

竹下
そう言っていただけると、本当に嬉しいです。

伏見
私は一緒に仕事をする方とは、お互いの成果を見せ合って、少しずつ信頼を深めていくのが良いやり方だと思っていて。

竹下
初めて仕事する方だと、勝手がわからない分、不安な点はありますよね。

伏見
竹下監督とは理想的な関係が築けているんじゃないかなと思います。

ーー監督としては、今日のプレミア試写会はプレッシャーの中で迎えた感じでしたか?

竹下
すごくプレッシャーは感じてますね。それに、今日は行かないほうがいいかなって思ってたんですよ。

(一同笑)

伏見
この対談ができないじゃないですか!

竹下
この対談の時間に合わせて行こうかなと(笑)。

ーー行かないほうがいいと思ったのはなぜですか?

竹下
自分が客席にいることで、キャストさんやお客さんにも緊張感を与えて、変に気を遣わせてしまうんじゃないかなと思って。

伏見
原作者や監督がいても、彼らは正直ですよ。海外でやった『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』(以下:『俺の妹』)の上映会もそうでしたから。
今日も素の反応だったんじゃないかなと思っています。

ーーかなり笑い声は起こっていましたよね。

竹下
正直ホッとしました。
今回は、自分がやりたいことを全面に押し出したところがあったので、ファンの人たちが納得いかないものになっていたらと思うと、すごく怖くなったというか…。
で、家で祈っていたほうがいいんじゃないのかなと思って(笑)

伏見
作っているときは、すごく強気だったじゃないですか(笑)!

竹下
そうですよね(笑)。
ネタやコンテを書き上げた瞬間ってすごく自信があるんですけど、時間が経つと、こうした方が良かったかもって思うことがいっぱいあって。

ーーこのOVAでは、監督が自分で物語を作りたかったと仰っていました。
今回のストーリーは、伏見先生から見て、いかがでしたか?

伏見
最初、竹下監督から「自分が脚本を書きます」と提案をいただいたときは「髙橋龍也さんが書くべき」だと思ったんです。髙橋さんはエロマンガ先生というアニメ作品に多大な貢献をしてくださった方で、髙橋さんにお任せすれば間違いがないと思っていたからです。
ですが、竹下監督は覚悟を決めて脚本に取り組んでくださいましたし、脚本会議でも髙橋さんを含めて内容を綿密に相談して進めることができました。
最終的には非常にいいものになったと思います。その上で、今の自分には書けないシナリオになったとも思っています。かなり踏み込んだピーキーなシーンもあったりして「こわっ!」って思いました。そこだけは僕も視聴者の反応が気になるところでしたね。

ーーそれはきっと、1話の「山田エルフのラブソング」の最後のところですよね?

伏見
そうです。監督は、脚本会議で決まった描写より一歩踏み込みましたよね?

竹下
そうですね…。最後のパンダウンするときに、もう一歩エルフが踏み込むというのは、アドリブで作画さんに付け足していただきました。

伏見
アフレコ収録のときに「一歩踏み込みました」と言われて、「そこ、一番デリケートなところじゃん!」「危ないことするなぁ、この監督!」と驚いたのを覚えています。

竹下
そのとき伏見先生が不安そうにしたのは覚えていて、「大丈夫です!」と伝えました。

伏見
危険な描写ではありますが、その方が面白いのは確かなので、私もそれで行きましょうと賛成しました。

竹下
TVシリーズの9話の告白のときって二人の間に距離があったんですよ。
そこからいろんなエピソードを経て、一歩一歩近づいていって告白をするというのが9話とは違う今回のエルフの告白です。最後エルフと正宗が微笑みあって、さらに一歩近づくという意味を出したかったんです。

伏見
すごくグッとくるシーンになったと思います。どんな反響がくるのかハラハラしつつも楽しみです。

ーー全体的に、かなり踏み込んだ内容で、両エピソードとも、オリジナルとは言っても本編にかなり食い込んだ内容なのではないかなと思いました。

竹下
確かにそうですね。
伏見先生にエルフの母親を出していいかとか、事務所まで行ってお伺いを立てたりしましたし。
今回の裏テーマは、母親というのもあったので。

伏見
かなりテーマが立った話を書きたい方なんだなというのは脚本会議のときに感じていました。
プロットの段階でテーマが入っていて、それがちゃんと形になって、グッと来るものになっているなと。ただのラブコメではなく、きっちりとしたストーリーになっていたと思います。

竹下
やるからにはチャレンジングな内容にしたいなと。自分にとって新しいことにチャレンジしていないと仕事をしていてもドキドキできないし、面白くないと思うんですよね。

伏見
『俺の妹』のとき、かなりピーキーな内容だったこともあって、すごく疲れたんです(笑)。
だから『エロマンガ先生』は安全運転で行こう!みたいな思いがあったんですけど、監督がアクセルをガンガン踏んできてくれたので、当時の気持ちを思い出しました。

ーーでも意外と楽しい!みたいな。

伏見
はい、すごく楽しかったです。

竹下
そうやって原作でもナイーブなところに踏み込んだ分、本編では見た人の印象が悪くならないよう、特に気をつけて演出をしました。
1話のEDも映像をみた後の読後感を良いものにすることが主な目的ですね。

――監督のこの作品にかける意気込みを感じました。

竹下
今回はミュージカルをやるということで現場にも大きな負担をかけてしまい、申し訳なかったです。
でも大変な分、自分が関わった作品の中でも最高のフィルムにする、絶対に面白いフィルムにする!と、スタッフに宣言して、鼓舞してきました。
スタッフの皆がそこに応えて踏ん張ってくれたおかげで、本編を超える素晴らしいフィルムになったと自負しています。改めて、スタッフの皆様にはお礼を言いたいです。

伏見
実際に映像はとんでもなかったですね。
ヒロインをあんなにいろんな角度から映すアニメってテレビではまずないし、アイドルアニメに対抗できるくらい、ミュージカルは最高の映像だったと思います。

竹下
今回は設定類も全部新しくしていますからね(苦笑)。
1話のエルフの衣装や2話の紗霧の部屋着も新しく設定を描き起こしていただきました。
今日のイベントのキャストトークのところで藤田茜さんが「紗霧の靴下がずれ下がっているのがポイント」と言ってくれていたのは本当にその通りで。設定を描いて下さった後藤さんのアイデアです。

伏見さんに対するリスペクトがあったから、
頑張れた(竹下)

ーー1話で、伏見先生がすごいと思ったシーンはどこですか?

伏見
1話は先程から話題にもなっているミュージカルシーンですけど……本当に、すべての映像がすごかったですね。最後のライトアップされるところも良かったですし。

竹下
あれは都会のホタルという画をイメージして演出しました。
木々の電飾を青とオレンジにしてくれたのは撮影監督の青嶋さんのアイデアですね。

ーー9話のホタルとつながっているんですね。
他に、たとえば監督に聞いてみたいシーンはありましたか?

伏見
脚本と違っていた部分について、お話をうかがいたいです。
ミュージカルの扱いが「本当にあったこと」になったじゃないですか? 脚本の段階ではそうではなかったですよね。

竹下
ミュージカル映画って、劇中でミュージカルをしていても、その後にはみんななかったことのように振る舞って日常シーンに戻っていくんですね。最初はそのノリで脚本を書いていました。

伏見
完成映像では、各キャラたちにミュージカルに対するリアクションが付いていて、こうしたのか!と思いました。

竹下
最初の脚本でコンテを一度描いてみて、そこから信頼出来る人に見せて意見をもらったりしたんです。
それから『エロマンガ先生』らしいミュージカルにするには劇中劇の方が良いと思い直し、コンテを描き直したんですよね。
伏見先生は最初からミュージカルは劇中劇と仰っていたんですけど、自分は先人がつくったミュージカル映画のようにメタ的なものがミュージカルなのかなと思っていて。

伏見
『エロマンガ先生』の視聴者層の方にメタ的なミュージカルというものがどのくらい受け容れられるのか、未知数だったんです。それは最初の争点でもありました。

竹下
だからコンテの決定稿を提出したときに、メールを伏見先生に打っていたんです。
本読みではミュージカルをメタ的なものにしていましたけど、コンテを描いてみて、結果的に劇中劇にしましたと。
でもそれも言い訳っぽいなと思って、メールで伝えるのではなく、結果で示さないと!と思いって、そのメールは消しました。

伏見
途中でそうしたんだなって気づきました。

竹下
劇中劇にすることでOPも描き直したんですよね。
最初はもっと違うOPだったんですけど、エルフが前もってミュージカルを準備している描写も入れて伏線を張りました。

伏見
ミュージカル部分について、私はノウハウがなくわからなかったので、完全にお任せする形でした。監督がすごいのを作る!と言っていたからお任せしよう!と。
その代わり、ミュージカルシーン以外ではしっかりサポートしようというスタンスで臨みました。
裏設定メモを引っ張り出してきて、この家族の関係性はこうだというのを説明したり、サンプルの会話テキストをお渡ししたり。

竹下
伏見先生に指摘されて印象的だったのは、山田クリスとエルフの関係ですかね。
クリスとの会話の中で、エルフが家を飛び出した時のことをもっと詳細に描いていたんですけど、そこが原作とは違っていました。
エルフは最初クリスのところに転がり込んでいたとか、そういう裏設定のフォローはすごくありましたね。

伏見
エルフの母親と正宗の初遭遇は、シリアスになりすぎないように調整させてもらいました。
お母さんをただ怖いだけのキャラクターにしたくなかったので、かわいいところも追加してくださいとか、たくさんわがままな要望を言ったのを覚えています。
ぜんぶ叶えてくださいました。ありがとうございます!

ーーバッグにちゃんと和泉マサムネのラノベが入っていたりして。

伏見
ちゃんと下調べはして来たという。

竹下
すべてエルフが幸せになってほしいという愛ゆえなんですよね。

ーー監督からは何かありますか?

竹下
今回、自分がやりたいことを『エロマンガ先生』でやるんだ!という気負いがあったので、無理を言ってオリジナルで脚本から書かせていただきました。
だから先程伏見さんが「髙橋さんがいるじゃん」と仰ってましたけど、それは自分でもすごく思っていたんですよ。髙橋さんが脚本、自分がコンテ・演出という形がエロマンガ先生として一番良いフィルムになるんじゃないかと。
でも、自分のやりたいことを絶対に実現したかったので、無理を通しました。本読みでは相当わがままに映ったのではないかなと……。

伏見
そんなことないですよ! 脚本会議で相談した部分を、ひとつひとつ真摯に直して、我を通すだけの責任を果たしてくださったと思っています。

竹下
伏見先生をはじめ、一人で物を作っている作家の方達って、孤独な作業と苦労連続の末に、世の中に物を出しているんじゃないかと思っています。
そこに対するリスペクトがあって、そんな方々に自分も少しでも近づきたいと思っていました。アニメはたくさんの人の力を借りて作るものなんですけど、自分のやりたいことを実現する分、自分が一番苦労しなければと思っていました。

アニメ『エロマンガ先生』は
竹下監督の作品ということで
胸を張って頂いてOKです!(伏見)

ーーで、2話の「和泉紗霧のファーストキス」は、
髙橋龍也さんが脚本を書いてくださいましたが。

竹下
最初に読んだとき、「読みやすくて面白い!」と感心しました。
全体を上手いバランスでまとめているし、セリフにセンスがあるんですよね。紗霧が言いそうなセリフとか、説明口調じゃないところが素晴らしかったです。

伏見
髙橋さんはすごく時間の管理がうまい方で、ここらへんで盛り上げて、ここらへんでCMが入って、ここで再び盛り上げて、最後に近づいてきたので、こういう雰囲気にして締める! と、綺麗にまとまっているんです。
1話に使う原作のページ数が変わったり、追加シーンのリクエストがあってシーンが増えても、すっと自然に調整してしまう。毎回すごく勉強になります。今回も、紗霧の魅力を引き出す素晴らしい脚本でした。

ーー2話の良かったシーンを教えてください。

伏見
2話はいつもの『エロマンガ先生』というオーダーがあって作られたものなんですけど、まさにみんなが待っていた『エロマンガ先生』になっていましたね。

竹下
いつものラブコメという感じで、ただ自分としては本編よりも一歩踏み込んだ映像にしたかった。それで正宗と紗霧の距離感が本編よりほんの少し近くなった描写を入れています。

伏見
TVシリーズに挟まれていても全くおかしくないような、自然な回になっていたと思います。

竹下
とても面白かったです。

伏見
視聴者の多くがOVAに望んでいたのは、紗霧の可愛い姿だったと思うんです。きっちりそれを届けることができました。
他のインタビューでも、OVAの1話は“すごい”『エロマンガ先生』、2話は“みんなが見たかった”『エロマンガ先生』だと紹介したんですよ。

ーー1話で驚いて、2話でホッとするような感じかもしれないですね。2話はOPとEDにちょっとの変化はありますが、本編と同じだったのも良かったと思いました。
ちなみに2話は、脚本会議と映像が違うということはなかったんですか?

伏見
なかったです! そもそも脚本会議がものすごく短かったです。

ーー普通に紗霧が正宗を看病するという話だけではなく、紗霧が料理をするシーンも、さりげないんですけど感動的なシーンでしたよね?

伏見
そこを少し説明しますと、紗霧が料理をするシーンでレシピを見ていましたが、あれは正宗のお母さんが書いた本なんです。そういうところに気づいてくれたらいいなと思います。。

竹下
紗霧が「お借りします」と言っていた理由とかは、伝わりましたかね……?

ーー十分伝わっていると思います。

竹下
紗霧の正宗の実母への気遣いなんですが、もしかした伝わらないかもと思い、あのシーンには在りし日の正宗と母を登場させて、わかりやすく描写しました。
『エロマンガ先生』はわかりやすい、見やすいというのもとても重要で。

伏見
いかにわかりやすくするかはラブコメの肝だと思っています。

ーー2話の見どころって、紗霧のかわいさだと思うのですが、小説とアニメでかわいさの違いはありますか?

伏見
それはもちろん「絵が動くこと」であり「声が付くこと」ですね。
私が必死で、どう文章で表現したら可愛くなるかを追求しても、高品質で動く絵と声には敵いません。高度に作り込まれたラブコメラノベアニメは必ず原作に勝てると思っています。

竹下
たくさんのプロの力をお借りしてつくっていますからね。「原作以上のフィルムにしなければ!」とアニメを作る側として思っています。

伏見
竹下監督を信頼できるのは、すごく当事者意識が高くて、自分の作品として作ってくださるところです。
これができる仕事相手というのは非常に貴重ですごいことなので、ラッキーだったなと思っています。

竹下
良いアニメをつくるのに一番必要なのは愛を注ぐことだと思っています。
ただ、それだけ作品に対する愛や思い入れが強くなってしまうほど、原作をお借りしてる立場であるという意識がふとでてきて寂しくなる時がありますね。

伏見
アニメ『エロマンガ先生』は、竹下監督の作品ということで、胸を張って頂いてOKですよ!
最後になりますが、今回のOVAのヒットは、プロデューサーの柏田真一郎さんや丹羽将己さんのおかげでもあると思っています。本当にありがとうございました。